井上塾について

さっさと60〜70に到達して、一緒に100を目指しましょう。
そのための「型」は、すべて提供します。

多くの術者と指導者としての経験から、どんな人でも平均的に「上手な」術者になるためのポイントが見えてきました。その手の内を、すべてここで明かします。

「上手な」術者・指導者になるための記事と指導を、ここで届けていきます。

「数をこなせば上手くなる」は、錯覚です

手術を覚えはじめのうちは、ほとんどの人が「数をこなせば、それだけ上手くなる」と錯覚しています。どの手技でも、人生で1例目より2例目、2例目より3例目のほうが上手くできる。その成功体験が、この幻想を生むのだと思います。

けれども、そのまま何百例、何千例とこなせば誰よりも上手い術者になれるかというと、そうではありません。本当は、多くの人が気づいているのではないでしょうか。

実際、上手な人は1例目から上手い。本当に手術の上手な人は、同じ手術を3例もやれば、経験者と遜色のない、あるいはそれ以上の手術をしてしまいます。

この違いは、何なのでしょうか。

立ち上がりと、プラトー

上達には、2つの軸があります。立ち上がりの角度と、到達点です。私はこの到達点を「プラトー」と呼んでいます。

立ち上がりを急峻にしつつ、なにより、プラトーを高くする必要があります。2つは互いに相関していて、プラトーを高く持っていこうと努めると、結果として立ち上がりも急峻になる。私は経験から、そう考えています。

そして、このプラトーをできるだけ高くする方法が「型」です。手術が抜群に上手な人には、ある程度の共通点があります。それらを一般化して言葉にしたのが、井上塾の「型」です。

「もっと症例を」では、届かない

プラトーが低くなる人は、1例前、2例前と今とで上手さがそれほど変わっていないのに、昔は1例ごとに上手くなったからと、「もっと症例をやれば」と足掻いています。このあと100例やっても、そう上手くはなりません。

数をこなせばそれだけ上手くなるのなら、症例の多い施設の部長や教授は、誰よりも手術が上手いはずです。本当に、そうなっているでしょうか。

繰り返しになりますが、上手い人は、はじめから上手い。数例やれば、極めてしまいます。上手くなるのに10例以上も必要なら、そもそも方法が間違っている。それを受け入れるところから、始めるべきです。

型がないまま、中堅にならないために

「数をこなせば上手くなる」と思ったまま中堅になり、年を重ね、結果的にそれほど上手くならず、ときに環境のせいにしている。そういう術者を、私は多く見てきました。

その多くは、そもそも「型」がなっておらず、その先に上手くなる見通しの立たない手技をしています。ただ、熱心で知識も豊富、優秀な術者との付き合いもあって目も肥えている。だから周りもコメントしづらく、「自分のダメな型」が見えないまま、そこに凝り固まって抜け出せずにいることが多いのです。

間違った方法のまま症例数を消費している「頑張っている」人は、患者さんにとっても迷惑です。10例以上やった手術を、まだエキスパートの質でやれずに「まだ症例数が」と言っているなら、社会のためにも、後輩たちとの関係のためにも、方向転換を考えてほしいと思います。

そうならないうちに、一日でも早く、できればビギナーのうちに、いろいろな場面で力を発揮する優れた「型」を身につけてしまえば、成長は早くなります。

器用でない人のために作った「型」

井上塾の「型」は、本来、言葉を憚らずに言えば「あまり器用ではなく、あまり手術が上手くない人」でも、ある程度の手術ができるようにと開発してきたものです。そういうことに悩んでいる若手の脳神経外科医は、多くいます。そういう人でも「平均的にそこそこ上手い」手術ができるようになれば、と願って作ってきました。

全く何もできない状態を0、とんでもない神業を100とすると、私は60を目指す型を作ってきたつもりでした。

ところが、私が最低限の到達目標として掲げてきたこの「平均的にそこそこ上手い」は、世の中で言う「何をやらせても普通に手術が上手い」レベルだと気づきました。この60にさえ到達せずに手術をしている術者は、非常に多い。60に到達してしまえば、たいてい「周囲のなかでは上手い側」に立てます。そもそも、60に到達している術者がいないコミュニティさえあります。

不器用だったとしても、プラトーの高さは60までは持っていけます。単に、立ち上がりの角度が穏やかになってしまうだけ。丁寧に前進すれば、確実に60を目指せます。

もちろん、60を最低ラインとして作ってきたので、個人の資質や努力で70や80まで到達する人がほとんどです。

100は、理想の世界です。そもそも、存在しないのかもしれません。目指す道のりは非常に長く、コスパも悪い。私自身も、まだその途中にいます。けれども、それを一緒に目指すのが、脳神経外科医として一番面白いところです。

60〜70へは、最短で。100は、一緒に目指す。

型は、ここで育つ

この「型」の開発には長年力を注いできて、ある程度完成してきたと考えています。その手の内を、すべて明かします。

同時に、型はまだ成長の途中です。この塾の中で多くの人のフィードバックを受けて、さらに育っていくものでもあります。

型を、少しだけ

手の内を、まずひとつ。

型の一例

ハサミがうまいんじゃない、左手がうまい

ハサミを入れても、膜が切れない。もう一度、同じところに刃を入れる。きれいに切っていく人を見ると、ハサミの腕が違うように見えます。

「何が違うって、ハサミうまいんじゃないねん。左手がうまいだけやねん」
Sylvian裂を分ける場面の指導から

上手な人は、刃を入れる前に、左手で、切りたいところへ張りを集めています。ただ強く引いているのではありません。必要な張りの八〜九割は、左手が触れる前に、もう決まっている。左手が与えるのは、最後の一手だけです。

記事では、この一切りを、手の順番まで分けて語っています。その八〜九割を、何で作るのか。左手は、どこを引き、どこを緩めるのか。どこで、力を止めるのか。

同じ左手は、手術の入り口から、クリップを閉じる瞬間まで、場面を変えて出てきます。場面ごとに、別の記事で語っています。

ドナーの採取
この時ばかりは、右手が添えるだけ
開頭
筋肉でなく、膜を起こす
剥離
テンションを作ってから、切る
retractor
もう一本の左手
クリップを閉じる
閉じる瞬間は、左手も一緒に寄せる

ほかの型から、いくつか

  • 止まってから動いて、また止まる〔井上塾の型〕
  • 道具は弱拡大で入れ、作業は強拡大で〔井上塾の型〕
  • 張らせるもの、張らせないもの〔井上塾の型〕
  • 下手くそは2手で終わる作業を10手ぐらいする〔井上塾の型〕
  • 押すのでなく、持ち上げる〔クリッピング〕
  • 送ると締めるは、別の操作〔クリッピング〕
  • 考えてやれるほど、人間は賢くない〔クリッピング〕
  • 逃げ道を、先に言葉にする〔バイパス〕
  • 崩さず、一塊で上げる〔CEA〕
  • 答えを渡さず、替わる時刻を選ぶ〔CEA〕
  • 皮切は嘘つかない〔MVD〕
  • 速くなろうとすると、遅くなる〔無駄な手数を減らす〕

ここに並べたのは、ほんの一例です。型は、まだまだあります。どれも記事の中で、実際の手術の場面から、手の順番と稽古まで、詳しく語っています。型の記事は、これからも増えていきます。

最後は、本物を見ながら

言葉にできることは、できる限り、このサイトの中で伝えています。それでも、文字だけで手術が完璧に伝わるとは、思っていません。

手術は、最後は本物を見ながら話さないと伝わりません。自分のやっている手術を見てもらい、指導を受ける。この過程は、欠かせないものかもしれません。そして、立ち上がりをスムーズにするのに役立つことは、言うまでもありません。

記事と並んで個別指導を設けているのは、そのためです。ご自身が執刀した手術のビデオを見せていただき、一場面ずつ、一緒に振り返ります。

こんな人へ

  • これから手術を覚えるビギナー——はじめから「型」で
  • 器用さや手術の上手さに悩んでいる若手——「型」は、そのために作りました
  • 「まだ症例数が」と感じている中堅——方向転換のきっかけに
  • すでに60〜80にいる人——100を、一緒に目指す
  • 若手を教える指導者——教えるための言葉として

一緒に、目指す

一緒に学んで、100を目指す脳神経外科医の集団になっていく。井上塾がそういう塾へと発展していけば、この上なく嬉しく思います。

井上 靖章

塾長

井上 靖章

Yasuaki Inoue, M.D., Ph.D.

井上 靖章のプロフィール写真
脳神経外科医
湖東記念病院 脳神経外科
プロフィール

京都大学医学部医学科卒業。Mayo Clinic(Orthopaedic Biomechanics Lab)研究員、Harvard Medical School / Brigham and Women’s Hospital での Endovascular and Cerebrovascular Neurosurgery Fellow を経て、名戸ヶ谷病院 脳神経外科部長 / 脳卒中センター長を歴任(2021-2026)。2026 年より湖東記念病院 脳神経外科部長。脳動脈瘤に対する開頭クリッピング術と血管内治療の両方を得意とし、最高難度の症例を含めて年間 100 件以上を執刀。その他多くの鍵穴手術や頭蓋底手術を手掛ける。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医、日本脳神経血管内治療学会専門医として診療を続けながら、多くの出張手術と手術指導を行い、専攻医の教育にも携わってきた。

経歴
2010
Mayo Clinic Orthopaedic Biomechanics Lab 研究員
2013
京都大学 医学部医学科 卒業
2013–2026
名戸ヶ谷病院 脳神経外科
2013
臨床研修医
2015
脳神経外科
2016
東海大学医学部付属病院 脳神経外科(トレーニング)
2016
札幌禎心会病院 脳神経外科(トレーニング)
2017
脳神経外科 帰任
2020
Endovascular & Cerebrovascular Neurosurgery Fellow, Brigham and Women’s Hospital, Harvard Medical School(留学)
2021
脳神経外科 部長 / 脳卒中センター長
2026–
湖東記念病院 脳神経外科部長